ダークサイドからの逃亡

※権力が世界を征すとお思いの方は読まない方がよいかもしれません。若干リベラルな思考を持った者が書いております。

水戸芸術館の現代美術センターで人間の未来へ｜ダークサイドからの逃亡を観た。
ダークサイド。つまり陰の部分だ。人類の歴史や現在において存在する陰の部分。戦争の悲惨さや構造的貧困、労働力の搾取など多くは日が当たらず沢山の人の目に触れることはない。しかしこの陰は確実に世界を蝕み始めている。会場内にあったトルストイの言葉、
「この世界に悪はない。悪はすべてわれわれの心の中にあって、これを滅ぼすことは可能である。」
そう、我々が作り上げた世界は我々にしか変えることは出来ない。またトルストイは、
「今ではもう大多数の人々が、戦争というものが自分たちにとってなんの利益もないばかりか、いかに愚劣で残酷なものであるかを知っているのだけれど、彼らが戦争の放棄を自分たち一人ひとりの行為のなかにではなくて、一般的政治決定のなかに求めるために、なかなかそれができないのである。」
とも述べている。つまりほとんどの人が愚かな戦争には「反対」にも関わらず、自分達の意思決定によってそれを食い止めるということが可能だということに気がついていない。事実を見るのは時に非常に難しい。放任された自由が支配しているのは、戦争やとにかく利益を追求する経済大国的な思想。資本を投下し利益を所有することを追い求め、やさしさや勇敢さ、素直さといった人間性に存在価値のない世界。それに気づかせようと多くのアーティスト達の作品が集められた。
Magdalena Abakanowicz（マグダレーナ・アバカノヴィッチ）
Philip-Lorca diCorcia（フィリップ-ロルカ・デコルシア）
Antony Gormley（アントニー・ゴームリー）
橋本 公
広河 隆一
Michael Light（マイケル・ライト）
James Nachtwey（ジェームズ・ナクトウェイ）
長倉 洋海
Shirin Neshat（シリン・ネシャット）
Yoko Ono（オノ・ヨーコ）
Eugene Smith（ユージン・スミス）
Do-Ho Suh（スゥ・ドーホー）
Bill Viola（ビル・ヴィオラ）
の13名である。
強烈だったのは、初っぱなのアントニー・ゴームリー。大小無数のスティール・ブロックから成る作品

「昇華物IV」。
近くで見ると直方体の鉄のブロックが等身大の人間の形状に積み上げられているのだが、少し距離を置いて見ると、人体がコンピュータ画面上で消滅していく様を写し出しているようである。しかもそれがバーチャルの世界というよりは、等身大であるが故に非常にリアリティがあり、凄く「終わりが近い」感覚に陥る。人間とその社会もこうやって脆くも崩れ去っていくのだろうか。
また橋本公さんの”1945-1998″も、単なる事実ながら我々の冒してきた事実がいかに危険なものであったかを改めて見せさせられる。１ヶ月を１秒とし、1945年から1998年まで行われた2053回の核実験を時間ごとにプロット。実験を実施した国別（アメリカ、ソ連、フランス、イギリス、中国、インド、パキスタン）にプロットされる時の音程を変えており、1950年代には、画面が光りっぱなし音が鳴りっぱなしで、ほとんど世界が終わるの図である。なおアメリカの核実験には広島、長崎への原爆投下も含まれる。
他にも戦争によって奪われた人や関係を撮影した報道写真、有名な「世界がもし100人の村だったら」、人類絶滅後発見された４人の家族と１匹の犬という設定で、最後に４人が求めたものを探る「絶滅に向かった種族2319-2322」などなど。
人間は悪や陰の部分を必ず持ち合わせているが、それらとうまく付き合っていかなければならない。他者への理解という共通の善なる部分に自覚的になれるかということが、この世界を変えていくための最大のハードルなのかもしれない。それに自分は安全でいたいと思うのは当然だが、それは他人も同じなのだ。結局「汝殺すなかれ。」に行き着いてしまうのだろうか。
子供達を写した写真も何点かあった。悲惨な状況におかれていても消えることのない笑顔にやっぱり子供は天使だと思った。それがなんでこういうダメなヤツらばっかりになっちゃうんだろうねー。
という訳で、現在そのまま水戸におります。ルーズソックス発祥の地でございます。納豆だけじゃありません。B系のおとこのコ達が多いのは謎ですが、なかなかフォトジェニックな街でもあります。
適当に写真など撮ったので、続きはまた明日。